JUNI 19

ママ。 来週 日本にジウォンが来るぞ!

パパが何だか 盛り上がっている。 誰だよ その人ジウォンって。 韓国人?
「・・あ・・・ジュニの パパか。」

イ・ジウォンssiは パパの親友であるだけじゃなく 恩人だそうだ。

あいつがレポートやってくれなかったら 俺は 卒業出来なかった。
「ねえパパ? レポート“手伝ってもらった” じゃないの?」
「いや“完全に”やってもらった。単位ぎりぎりだったから 間違っても落とせなくて。」

トホホ・・それってズルじゃん。 ナニを言うか。友情と言え。

ジュニのパパは 学者さんで アメリカの大学で教えているらしい。
韓国で国際学会があるとかで その帰りに寄るという。

ウチで 正月まで迎えていってくれないかな。 パパは1人で 興奮していた。
「ジウォンも 今じゃ 大学者様 だもんなあ。」
・・・・そうなんだ。

「ノーベル賞取った大柴教授の研究だって かなりサポートしたらしいぞ。」
大柴? 大柴? どこかで聞いたな? あ!
「パパ ・・・その大柴教授って ちょっと太ってニコニコしたおじさん?」
「お前は ノーベル賞受賞者も知らないのか? かーっ! 情けないねえ。
 大柴教授は 太ってニコニコ? そうそう そういう感じのひと。」

アタシ会った。 ジュニの先生じゃん。

「げ・・・・。あのオジサン そんなに偉かったんだ。」
ジュニが トップ・サイエンティストになるって話 やっぱ本当なんだ・・。

“こんな子のために 将来を棒に振ったの?”

美人のアニーさんの声が あたしの脳裏にこだました。

—–

ジュニのパパに会った時 アタシは ちょっと呆然とした。

面と向かっては言わないけれど アタシ うちのパパはなかなかカッコイイと思う。
だけど ジュニのパパときたら・・ もんのすっごく格好イイおじさまで。
ジュニとパパがハグする所なんか 映画のワンシーンみたいだった。

ママも すっかりご機嫌で ここぞとばかりにご馳走を並べる。
ジュニパパの来た夜。 アタシの家は とても賑やかな宴会になった。

「Wao! 君 茜ちゃん? 大きくなった。すごい美人になったなあ。」

せっかく ジュニパパが褒めてくれてるのに パパってば
茜はオカメでペチャパイでって。  ・・・自分の娘を そこまでけなす?

「こんなに可愛いお嬢さんになっちゃったら ジュニ? お嫁さんに欲しいよな。」

ジュニパパって やっぱりジュニのパパだな。 すごい事をさらっという。
「高坂。 本当に ジュニの嫁にくれないか? 茜ちゃん。」
「お前んちにやれる程の できた娘じゃないよ・・。」
貰ってくれるんなら うちとしては万々歳だけどな。 そうよねえ とママまで言った。

その時の ジュニの嬉しそうな顔。
パパ・・・冗談だと思っているでしょ?  そうじゃない奴が ここにいる。

ジュニは 話を合わせたように 軽い感じでさらりと言った。
「そうですか。じゃあ僕 ちゃんと職についたら 茜さんをもらいに来よう。」
嬉しいねえ 茜もこれで安心だ。 パパはあくまで のんきに笑う。

アンタらねえ・・・。 アタシはくらくら めまいがした。

—–

ジュニの部屋に泊まると言ったのに パパが無理矢理引き止めて
ジュニパパは アタシの家に 泊まることになった。
せっかくの親子水入らずを邪魔する奴だよ アタシのパパってば。

ママはお台所を片付けるから 茜は 客間に布団を敷いてちょうだい。
布団の用意をしていると ジュニパパがやって来て ニコニコとそばに座った。

「あれ? うちのパパは どうしたんですか?」

「飲みすぎてつぶれました。 高坂も忙しいのに無理してくれて申し訳ないです。」
ジュニの日本語は このパパのお仕込みね。
アタシは 彼にそっくりなパパの口調に 思わず笑ってしまう。

「うん?茜さん。 どうして 笑うんですか?」
「ごめんなさい。 話しかたがジュニ・・ジュニさんに そっくりだなって。」

ジュニパパは とても嬉しそうに アタシの顔を覗き込む。
そんなに 見られると照れるな。 ジュニ親子って なんでこうなんだろ?

「あの ジュニは・・・ 茜さんに仲良くしてもらえているんですか?」

どういう意味かな? 言われた意味が解らなくて アタシが黙ると
コホンと 咳払いをして ジュニパパが言った。

「ジュニは・・・ あなたを困らせていませんか?」

「え?」
「その・・ 息子が無理に交際を迫ったり そういう 失礼は ありませんか?」
「あ・・・いえ・・あの。」

心配なんです。あの子は昔から 思い込むと他が見えないような所があるから。
「隠さないで教えてください。 ジュニは 茜さんに 何か失礼をしていませんか?」
「・・・・・。」
「茜さん?」

茜さん? その言い方は ジュニにそっくりだね。
「アタシ・・・あの ジュニが 好きです。」
「!」

ひえぇぇぇ。  何で こんなこと言っちゃったのかな? 

アタシが もじもじ照れながら眼を上げると
ジュニパパは ものすごく派手な笑顔のまま 首を振った。
「Jesus Christ!  本当ですか? あの・・それは ジュニも知っていることですか?」
「・・・はい。」
「じゃあ ジュニとあなたは その 好きあって交際しているということですか?」
「・・・うちのパパ達には まだ・・・。」

きゃ!
いきなりジュニパパに ハグされた。 

この親子ってば そういうコトする時は 女性に許可もらうっていう 
常識が 揃いも揃って ないんじゃないだろうか?

「あ・・ああ。 すみません。  いや そんな幸運があるわけないと 思っていたから。」
幸運? アタシがジュニを好きになったという事が 幸運なの?

「私は・・ ジュニの想いは多分 空回りするだろうと思っていました。
 その時あの子が どれだけ傷つくか・・・。  いや それより 
 直情のままに あの子が茜さんにどんな失礼をするかと思うと 怖かったのです。」
「・・・・・・。」

「茜さん! ジュニの想いに応えてくれて ・・・本当にありがとう。」

ジュニパパは マジ嬉しそうにアタシを見る。 いいと言ったらキスくらいしそうだ。
いやまぁ どういたしまして・・というのも変かな。 アタシ なんか照れちゃう。

あ・・・・!
この人に聞こう。 突然アタシはそう思う。ジュニパパだったら 答えてくれる。

「あの ・・・ジュニのお父さん?」
「パパ と呼んでください。茜さん。」
「ええ・・パパ。 アタシ聞きたいことがあるんですけど。」
「何ですか?」

アタシが ジュニを抱きしめて お嫁さんになってあげると言った時。

「どうして ジュニは 髪がまっ白だったんですか?」
「茜さん・・・。」
「ジュニは狂ったように アカネ、アカネって・・どうして 呼んでいたんですか?」

小さい時のことだから よく憶えていないんです。 最近 やっと思い出したくらい。
アタシの 問いに ジュニパパの笑いが 固くなった。
「う・・ん・・・。」
「ジュニは アタシを大事にしてくれます。 あの ちょっと・・怖いくらいに。」
「ええ・・・・・。」
「知りたいんです。 何で ジュニがあんなに アタシに執着するのか。」

「・・・・。」

うつむいたまま。 ジュニパパは 薄く笑ったような気がした。
ううん。笑ったような顔で 泣き出しそうだったのかもしれない。

—–

「茜さん? ジュニの母親が 早く亡くなったことは ご存知ですよね?」

ジュニパパは 身体の力が抜けたみたいに 肩を落として話し出した。
「・・はい。」
「病気・・というより突然死です。ハート・アタック・・・心筋梗塞です。」

あの子が 7つの時でした。 
ソニン・・妻はジュニを溺愛していて ジュニは 大変な甘えん坊で。
毎晩 子守唄代わりに童話を読んでもらって寝るような子だったんです。

「ソニンが心筋梗塞を起こしたのも そんな晩です。」

すさまじい胸の痛みの中で 妻は 自分が死ぬかもしれないと感じたのでしょう。
その時 多分 彼女は思ったのです。
“ジュニを残しては 絶対 逝けない・・” とね。

「・・・・・。」
「ソニンは 最後の力を振り絞って ジュニを・・・抱きしめたのです。」

私はその夜 大学の研究室に遅くまで残って 学会発表の準備をしていました。
そうしたら隣家の方が 電話をかけてきてくれて・・。
「お宅のジュニちゃんがさっき ものすごい悲鳴を上げていましたよ と。」
「・・・・・・。」

家に電話をしても誰も出ないので 私は 慌てて帰宅しました。

そこまで言うと ジュニパパは眼をつぶって 頭を振った。
たった7歳だったんです あの子は。 どれほど 恐ろしい思いをしたのか・・・。

「今でも その光景は忘れられません。布団にうつぶせて 妻はこときれており
 ・・・真っ白な髪のジュニは 妻の死体に抱かれて 気を失っていました。」

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